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ヘッジファンドさえなければ、投資銀行さえ存在しなければ、今のような状態に立ち至らなかったののではないか、いかなる意味でモノの世界の安泰と繁栄につながるのか。
色々な答え方は出来るだろう。
だが、結局のところ、これはリスクの押し付け合いであり、様々なリスクを引き受けることに伴う報酬の奪い合いにほかならない。
かといえば、そんなことはないだろう。
注目すべきは彼らではなくて、彼らに金融の一人歩きを促す役目を与えた経済的成り行きのほうである。
そのそもそもの出発点がニクソン・ショックにあったことをみた。
その後に続いた金融自由化の大きな流れの中で、金融は次第に「金融のための金融」の様相を深めていく。
その流れに最も機敏に対応したのがヘッジファンドであり、投資銀行であった。
金融の一人歩きを支援することは、ビジネスとして最も先端的であり、収益性に富む分野であった。
そこで事業を展開しようとする金融機関の選択を責めるのはあまり意味がないだろう。
問題の本質はもっと根深いところにあるのだ。
だが、ここで注意を要するのが、合成の誤謬だ。
一つの金融機関にとっての合理的選択が、全ての金融機関にとっても合理的選択だとは限らない。
個別最適と全体最適とは必ずしも一致しない。
この点は、サブプライム問題についてみた通りである。
一金融機関にとって、カネの一人歩きを支援することが合理的であっても、全ての金融機関がそれをやり出してしまえば状況は変わる。
皆がこぞって金融の一人歩きを促していると、やがて一人歩きは暴走に変わる。
そして、金融が暴走した時、地獄の扉が開く。
そのさなかに、今、我々は立たされている。
なお、本節を終えるに当たっては、ヘッジファンドと投資銀行が果たしたもう一つの役割にも目を向けておかなければならない。
それは、金融グローバル化の担い手としての役割である。
彼らは、世界を相手に金融を一人歩きさせることを手広く実行してきた。
それが出来る条件が彼らには整っている。
そもそも、モノとの密着度が高い金融は、なかなか時空を超えられない。
借り手のニーズや体力を正確に把握しておかなければならないから、あまり遠くてコミュニケーションが取りにくい相手とは商売が出来ない。
産業金融に時空を超えた取引は本質的にあまり向かないのである。
だが、カネが一人歩きするタイプの金融ビジネスであれば、話は別だ。
いくらでもグローバル展開が可能である。
一九九七,九八年のアジア通貨危機の際には、ヘッジファンドのいわゆるグローバル・キャリートレードが東アジアの新興経済たちを大きく揺さぶった。
投資銀行の幹部社員たちは地球を股にかけてカネを動かすことが商売だ。
モノが動かなくてもカネは動く。
地球経済上を金融が一人で勝手に闇歩する。
それが現状だ。
闇歩するうちにその足取りはどんどん早まり、慌ただしさを増し、制御不能化していった。
そのことによって、金融立国だったはずが、次第に金融亡国状態に追いやられる国々が出て来つつある。
それが今日の時代状況だ。
地球大の集中治療室ワシントンDC・で開かれたG20金融サミット(2008年11月14日,APImages)およそ四○年前に遡って、グローバル恐慌の嵐吹き荒れる今日までの経緯をみた。
ここで、視点を再び今に戻そう。
恐慌状態が深化する中で、国々は、そして世界はどう反応し、どう対応したか。
その対応をどう評価するべきか。
それが今回のテーマであり、地球経済は挙げて集中治療室に入った格好になっている。
様々な生命維持装置に息を吹き込まれながら、世界の金融システムが何とか辛うじて稼働している状態である。
この状態に至る過程で、国々はどう動いたか。
「地獄の扉」が開いたアメリカではどうだったか。
欧州単一通貨、ユーロを擁する統合欧州に嵐はどう波及し、彼らはそれに対してどう立ち向かったか。
みずから恐慌の疑似体験を持つ日本はどうであったか。
そして、地球経済全体としてはどうか。
結論を先取りしていえば、国々の対応には大いに心もとないものがある。
なにしろ、グローバル恐慌という未体験ゾーンに突如として引きずり込まれたのであるから、無理からぬ面はある。
だが、それにしても、右往左往振りが目に余る。
そこにあるのは、まさしく、恐れ慌てる国々の姿だ。
長官の「バズーカ砲宣言」リーマン社の破綻を放置し、AIGに対しては救いの手を差し伸べるという行き当たりばったりのパニック的な政府の対応に対して、世間の評価は厳しいものだった。
ニューヨーク市場の株価は、二○○八年九月一五日のリーマン社破綻を受けて、二○○一年の「九・二」同時多発テロ事件発生以来、最大の下げ幅を記録したが、政府の右往左往振りをみてますます下げ足を速める展開になった。
これではいけないというわけで、財務省は包括的な金融救済策の取りまとめを急いだ。
その陣頭指揮に立ったのが、ハンク・ポールソン財務長官である。
さきにファニーメイとフレディマックの救済に乗り出した際、ポールソン財務長官はこう言った。
「財務省の手元にはバズーカ砲並みの火力がある。
」その火力すなわち資金力を注ぎ込んで、アメリカの金融市場を資金枯渇から救済しよう−迷走するアメリカというわけであった。
彼の体躯と面構えには、確かに「バズーカ砲宣言」がよく似合う。
だが、巨大な財政赤字を抱えるアメリカ政府は、本当に十分な火力を持っているのか。
誰もがそんな不安を抱く状態の中で、ポールソン長官のバズーカ砲から飛び出して来たのが、通称TARPの金融安定化法案である。
総額七○○○億ドルの資金を使って、金融機関から不良債権を買い取るという構想である。
二○○八年九月一八日に発表された。
リーマン社の破綻確定が九月一五日のことであるから、スピーディな対応だった。
だが、ここから先の展開は波乱と錯綜の連続だった。
ちなみに、計胃己という言葉には、タールを塗った防水シートの意味がある。
さしずめ、TARPの名称には強力な防水シートをもって、金融機関たちを連鎖的信用が漏水する恐怖から守るという決意表明が込められていたのだろう。
売るに売れない毒入り債権を金融機関の手元から切り離すことで、彼らの財務諸表上の負担を軽くする。
そうすれば、貸し渋りや貸しはがしで彼らがお互いの足を引っ張ったり、彼らの顧客企業向け融資資金が枯渇したりすることを防止出来る。
それがTARPの構想だった。
「防水シート」の迷走ところが、この構想に対して、まずは議会からいちゃもんがついた。
与野党幹部の超党派合意を受けて、金融安定化法案は早々に議会を通過するはずだった。
ところが、政府の思惑に反して、法案は下院で否決されてしまったのである。
与党共和党内からさえ、幹部たちの合意を無視した造反票が出た。
彼らの造反理由は二つあった。
第一にモラルハザード問題。
第二に財務省不信である。
政府による不良債権の買い取りは、いわば外科手術である。
病に冒された細胞を、手術で金融機関の体内から切り取る。
そうしてしまえば、金融システムは健康を取り戻し、信用収縮も収まるだろうという発想だった。
だが、これが議員たちの擢盛を買った。
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